岸田劉生「二人麗子像」2007.03.27日経
日本語になっている“バーチャル”という語は本来光学用語の「仮の」とか「虚の」意味らしい。美術(絵画や彫刻)の世界でこの概念が儘出てきます。
日経新聞の「日本美術のアバンギャルド十選」に、岸田劉生の油絵「二人麗子図」に関する一文が掲載されていて、彼の数ある麗子像の中でもこの絵は変わっています。
つまり一つの人格がかりそめに二人の姿として現れているのです。
こういった手法は元来禅の狷介な思想と云われるものの中で、普賢・菩薩の化身と云われ、いわばアイドル的に用いられることがありました。
察するに画家のアバンギャルド的な遊びみたいなものでしょう。
イスパニアの地、ナバラ州の寒村アルタイスのSan Martín de Tours教会(一廊式)の外壁を取り巻く軒下の持ち送りとか支持体メトープには奇妙な造作物が存在します。
ここに重複して三面に彫られた人の顔があり、私の推察ではこれらの顔は先史時代のケルト族の神像ロクベルトスに想を得たのではないかと思います。
巨大な眼、優雅な神秘的な鼻から口にかけての流れるような造形物が三面重複して、バーチャルに神秘的な風情をかこっています。
私はこの造形物は拙著★でも触れたように恐らく「三位一体」というキリスト教の高位の教義をバーチャルに具体化したものだと考えています。
(★『神の美術―イスパニア・ロマネスクの世界』p.266-269参照)
持ち送り三面重複像(『神の美術―イスパニア・ロマネスクの世界』より)
イスパニア・ロマネスク美術時代の彫刻物や絵画(特に写本)にこの手法がいくつか見られます。
所謂特にこれといった意味はなく、見るものをしてぎょっとさせる示威的効果を狙ったものでしょう。
2017.09.20