勝峰 昭の「神の美術」あれこれ。

キリスト教美術―スペイン・ロマネスクを中心に― AKIRA KATSUMINE

2017年10月

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 私はロマネスク美術の研究に励んで十数年経ちましたが、一貫して誰かがロマネスク時代の鉄細工の研究をやってくれたらいいのになあと思っていました。

 この度雑誌『Románicorevista de arte de amigos del románico6月号の巻頭記事にHerrajesen el Románico(邦訳:ロマネスク美術における金具)という小文とともに聖堂の扉口と思われる四枚の写真が掲載されました。
 
 執筆者は四氏でM.Rota Serra, J.Ribate Leal, R.García Nieves及びA.Guedes deCastroです。

 ここにその写真の内二枚を転載させていただき、優雅で味のあるロマネスク金具扉装飾をご覧ください。

 大聖堂や普通の教会の扉口には様々なロマネスク金具が取り付けられています。
 
 同文によれば、金具に二つの時代があり、次のように分類しています:
     
     第一の時代 1112世紀中葉  木の扉の金具
     第二の時代 1213世紀    装飾用建築格子
 
 
 細工は少し稚拙な感じが否めませんが、様式化し切削された見事な手細工から職人たちの息遣いが感じられます。



  *11月はスペイン他欧州旅行のため、ブログ更新はお休みします。

 
                    2017.10.20

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写真:死刑執行人による斬首―San Miguel de Estella(Navarra)扉口迫石

   (『Codex Aqvilarensis2008より)

 

 ここに載せた情景はナバラ州のサンティアゴ巡礼路に位置するEstella市の有名なサン・ミゲール教会の正面扉口アーチの迫石の一つに彫られた「洗礼者ヨハネの斬首」で、ヘロデ王の娘サロメの求めに応じて王が彼の首を斬るよう指示し、ヨハネが執行人のモスリムによって正に斬首されようとしている情景です。

   参照:新約聖書
      マルコによる福音書6-1429
      マタイによる福音書14-612 
      Degollación de Juan el Bautista
                              (洗礼者ヨハネの斬首)

 比例配分を無視し殊更誇張したロマネスク的表現の大きな鼻と分厚い唇を持つ大きな頭の黒人が、洗礼者ヨハネの首を根元から斬ろうとしています。

 記述では1300年頃のカンタベリー詩編に出てきますが、これはとても珍しい構図の彫刻物で、私はこの聖堂以外に見たことがなく、この場で皆様にお目にかけたかったのです。
 
 おそらくこの時の彫刻師は、斬首人という残酷な人間をその象徴的色である「黒」を用いたかったのでしょう。
 別に黒人を侮辱する意味はなく、勘ぐれば、当時のキリスト教徒によるイスラム系への忌避感覚が何となく感じられます。
 
 この教会は多少無理をしてでも訪れる値打ちがあります。

 一連の彫刻群の中でも「墓所を訪れる三人のマリア」は感動的で、しかも当時としてはやや先端的な写実味の感じられる秀作だと思います。


 
2017.10.05

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