ドニャ・サンチャの棺の一面 (12世紀)
(Monasteriode Santa Cruz (Benedictinas).Jaca.)
彫刻手法には、複雑な三次元の表象をまとまりのある像の表象に変えるという課題が一部与えられています。
これを解決しようと思うと、対象の「面」としての作用と包括的な「奥行」表象とを対置する必要があります。
この問題を解決して単純明快な容量の表象を獲得し、奥行き方向への展開の出発点をもつのです。
その後、対象となるものを、背後の奥行の厚みがどこも等しい一枚の層をなす面の形で完成させるわけです。
結局この表象方式は、三次元的な表象をまとまりのある視覚印象に結びつけようとすると、必然的にそうなり、それは形がどうであれ、三次元的なものを芸術的(彫刻的また絵画的)に造形しようとすれば必ずそうせざるを得ません。
その形が単純であろうと、たくさんの形が集まって一つの全体となっていようと同じ事です。
これは普遍的なことで、例えばギリシャ美術の浮彫風の表象方式もそういうことです。
つまり幾重にも屈折した動きを見せる“見る活動”の重心と安定した関係を見出すことにより可能となるわけです。
最終的には「調和の作用」で、形が完成するのです。
浮き彫りには、ロマネスク固有の「浅浮き彫り」からゴシックの「高浮き彫り」(深浮き彫り)まで様々な段階があります。
一番重要なことは、面の均等な作用を強く表現することです。
つまり描写すべき最重要な要素を同じ面の上に揃えることで、面の独自な印象を生み出さなければなりません。
しかしどこかが際立って突出しすぎると非芸術的な結果を招き、本来の距離感の手前にそれが現れ、包括的な奥行運動が阻害され、全体の印象からはみだされてしまうため、手前から奥への読み取りが不可能となります。
つまり一様な奥行運動は、均等化された奥行量の作用によって生じるからです。
ここに「基底面」(背景といってもいい)の必要性があり、それが浅くなるか深くなるかは上に置かれた主要面(手前の面)次第となります。
ロマネスク固有の「浅浮彫り」以外の像的表現は、「モーセの十戒」による三次元像の絶対忌避、つまり当時のキリスト教の不可避的要請によるものでありやむを得ないことですが、これに加え彫刻技術的に見た場合、浮彫りが浅いか深いかは対象の配置に左右されることもあります。
つまり浅い浮彫はいたるところで光を受け入れざるを得ないため、それに耐えうる情景に限定されるからです。
要するに、浅浮彫りは絵の場合と同じように、構想と配置によって決定されることになります。
逆に深い浮彫りは、影の効果を計算することが必要です。
云うまでもないことですが、私たちがロマネスクの二次元的な彫刻物に対峙するとき、留意すべきは可能な限り真正面から観るよう心がけることです。
これは絵画の鑑賞法と同じことです。
参考文献:ハーバード・リード『彫刻とは何か』日貿出版社、ほか
2018.12.20