今回はちょっと話題を転じ、私の好きな松本清張の作品のことを取り上げます。
若い頃の一時期、読書というと清張ものを読み漁ったものでした。
彼の作品数は国民的作家と云われるほど膨大な数に上り、これまで読んだ中では『昭和史発掘全巻』は労作と云えるでしょう、兎に角読み応えがありました。
その他数々の作品を読んで感じたのは人間の業という問題で、完璧な文章構成の中に鋭く描かれているのに感動したものです。
手持ちの分厚い文庫本で『松本清張の世界』(文藝春秋編、2003年版、709頁)は、多彩な角度から清張文学の人間性や制作態度など各般に亘りとりあげ、しかも極めて読みやすく、便利な書と云えるでしょう。
内容的には;
I. 私の想い出(多岐にわたる作家群による清張論が展開されています)
II. 巨大な山脈
III. 小説と肉声
IV. 清張ワールドの愉しみ
V. 創作周辺の人びと
となっていて清張の全貌が解ります。
全部で700近くの作品数、4~5万頁に上ります。どの作品もぐいぐいと引き込まれるように読まされてしまいます。
私個人としてはどちらかと云えば長編より短編により一層惹かれます。あれだけ膨大な作品の量にしては、各文章に「すき」がない、この辺りが読まされる誘因の最たるものでしょう。正直言って私はそのすべてを読んだわけではありません。せいぜい60~70%ぐらいでしょうか。
実は、清張は五味康祐とともに第28回「芥川賞」を受賞しています。受賞作品は『或る「小倉日記伝」』で、その節彼は小感想文を出しています。ここにその一部を転載しましょう;
“実のところ、今、芥川賞をもらったのは、大変だと思った。修練の足らなさは基盤の脆さを思い知らせているのだ。せめてもう三四年は、うずもって苦闘したかった。この受賞が自分の出発の推進となるか、背負わされた重荷となるかは、これからの運命と同様分からない。”
なんとも謙虚で控えめな感想ですが、察するに清張はこの受賞をバネとして飛躍に飛躍を積み重ねていったのでしょう。
外出の儘ならなかった猛暑の8月には、新潮社の『松本清張傑作総集』から、既出の『或る「小倉日記伝」』から始まって『断碑』、『黒地の絵』、『西郷札』ほかを読みました。
若き日に読んだ記憶はすでに飛んでしまっていて大変たのしい読書となりました。
並行していろいろなジャンルの本を読んでいますが、今しばらく清張ものも一つのラインとして続きそうです。
20190920