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80歳の誕生日を迎えてから半年ほど超多忙な日々を送りました。
というのは年甲斐もなく同時に二冊のスペイン語の書物を邦訳したのです。
早朝起きだし深夜まで机にしがみつくという毎日で、これまで幾度も翻訳は手掛けてはいるのですが、70歳代とは身体の疲れがまるで違い閉口しました。
しかし頭の回転は反比例していました。
・Grimaldo『la Vida de Santo Domingo』(聖ドミンゴの生涯)
・Fray Justo Perez de Urbel『El Claustro de Silos』(シロスの回廊)
(Ediciones de la Institución Fernán González,1975)
前者は50頁ほどの小冊子です。
後者はスペインにおける代表的な修道院回廊に関して232頁となります。
訳していてのめり込んでしまい、時間の経過を忘れました。
ここでは翻訳の技術論はさておいて.....
主人公のサント・ドミンゴ・デ・シロス大修道院の修道院長であった聖ドミンゴ・マンソの生前及び死後における多くの奇蹟は、いずれも驚くべき事実として身に迫りました。
今日でも巡礼者が絶えないのが頷けます。
キリスト教神学の定義によると奇蹟は「聖霊の働き」であり、「奇蹟は下位の公理の例外」とされています。
つまり“下位の公理”とは“科学”のことで、奇蹟は其の例外との位置づけです。
因みに“上位の公理”とは“教義”のことです。
平たく言えば、奇蹟を行う人は生前極めて徳が高く、神の思し召しに叶う人だけが神より与えられる超能力を備え聖霊の働きを呼ぶ人のことで、聖ドミンゴはこの意味で天寿を全うした聖人にして奇蹟を行う人でもありました。
彼の場合それは庶民の日常性の中で起こす庶民的な奇蹟でした。
それは仰天動地の世界を招来したり、政治くさい意外性がないのが特徴です。
周知の如くシロスのサント・ドミンゴ大修道院は西欧のロマネスク美術上、その回廊の持つ重要性と意義は特筆に値する優れものです。
後者は、私にとって血となり肉となった素晴らしい古典的名著であります。
スペイン人の友人が古本屋さんで見つけてくれました。
ところが邦訳されたものは未だ我が国にはないと思います。
この美術の粋に酔いしれるとともに、初代修道院長だった聖ドミンゴの奇蹟の数々を具体的に知るのも、我々は日常性の中にあって神秘なしかも確かな神の恩寵の世界をより身近に感じることになるでしょう。
(勝峰昭 執筆日2014年5月31日)