勝峰 昭の「神の美術」あれこれ。

キリスト教美術―スペイン・ロマネスクを中心に― AKIRA KATSUMINE

タグ:スペイン


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 レオンのサン・イシドーロ参事会教会横の王廟内壁画より

  ⭐︎ 新しい年の扉へどうぞ 


  
  ふたつの顔をもつ男と、ふたつの扉。


  過ぎた年から、新しい年への移行を 意味する寓意。







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  レオンのサン・イシドーロ参事会教会横の王廟



 鶏は、夜明けを告げる鳥、太陽の鳥であり、これを聖鳥とする習慣は東西に遍く拡まった。 
 (柳宗玄著 『かたちとの対話』岩波書店、1992年)


 雄鶏は早朝に時を告げるので警戒と用心のシンボル。
 (中森義宗著 『キリスト教シンボル図典』 東信堂、1993年)

 








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  ( 写真はすべて、”Real Colegiata de San Ishidoro”より)






【お知らせ】


勝峰昭著『イスパニア・ロマネスク美術』、『神の美術―イスパニア・ロマネスクの世界』(光陽出版社)は刊行以来、
三省堂書店神保町本店の美術書コーナーでお取り扱いいただいてきましたが、
2022年5月新社屋建設のため移転縮小となることにより、今後はアマゾンだけでの取扱いとなります。


イスパニア・ロマネスク美術
勝峰 昭
光陽出版社
2008-08T


 






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(次回2024.02.02更新予定)
 




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エルヴェ・ルソー著『キリスト教思想』中島公子訳(白水社、1975年)を読んだ。

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Hervé Rousseau  :  LA PENSÉE CHRÉTIENNE.

やや難解な内容も、訳文が優れていて理解しやすいと感じた。




アウグスティヌス(354ー430)について以下のような記述がある。


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アウグスティヌスにとって、神の存在は世界のほうに起点を置いて結論されるものではなく、直接魂に現存するものであったー

「汝自身にかえれ、真理は内なる人の中にこそ住むのである。」

あらゆる思想はおのずからこうして内面的対話に向かう。

「神と魂、その他にはないもない。 (「独語録」一の二)

アウグスティヌスにあっては天然の自然や宇宙的展望の占める場所はない。

自然に関する知識はむなしいのである。

そこにあるのはアリストテレス的思想に対立することになる。

《アウグスティヌス的思潮》、のちのキリスト教思想の中のひとつの一貫した流れを決定するある種の態度である。

(以上、抜粋)

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この考え方は、いわゆるネオ・プラトニズムとも言われる思想とも重なるもので、私の考えではロマネスク美術の背景を流れる基本思想に多大な影響を与えたと思う。

自然はうつろいやすく、本質的な第一義的な価値をもたない。

つまり神の居場所ではないのである。

ロマネスク美術にあって、自然を背景として取り入れないのはこの辺りがその理由であろう。



(勝峰昭 執筆 2013年 8月31日)


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  Església de Sant Andrreu,Sugás (Berguedá)  S.XII
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勝峰昭著『イスパニア・ロマネスク美術』、『神の美術―イスパニア・ロマネスクの世界』(光陽出版社)は刊行以来、
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イスパニア・ロマネスク美術
勝峰 昭
光陽出版社
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(次回2024.01.02更新予定)




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        Església de Sant Andrreu,Sugás (Berguedá)    S.XII



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本屋で過ごす時間は、日本においてもスペインにおいても格別のものだが、かの地では次の機会がないかもと思うとカゴの中に躊躇なく本を入れていく。

帰国後はそれらを翻訳する楽しみが待っている。


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Catedrales Románicas』Catedrales de España―、Isabel Frontón Simón、Ediciones Jaguar




 E,Javier Pérez Carrasco の序文より一部抜粋し邦訳します。




Catedrales y Monasterios románicas

 

Burdas generalizaciones han intentado establecer entre el estilo románico y el gótico la misma oposición que existe entre la cultura monástica y la urbana. 

 

 

ロマネスク大聖堂と大修道院


極めて大雑把に概括的に云うならば、ロマネスク様式とゴシック様式の間には、修道院文化と都市文化との間に存在するような相反的なものがある


往々にして前者は大修道院固有の美術だと見做されている。


議論の余地がないのは、ロマネスク世界において大修道院は第一級の美術と文化の中心であるが、その重要性は過小評価されている嫌いがある。


それはゴシック世界においても大同小異である。


いやその度合いがさらに大きいのは大聖堂の方かもしれない。


バラル・イ・アルテットの見解によれば、10世紀における建設や改修の中心は大聖堂であり、11世紀中にはさらにその度合いを深め、新機軸や野心的な計画が行われた。

 


ロマネスク大聖堂の不評の原因は、多くの場合その顕著な主体性を正当に評価出来ない多くの歴史家たちの無関心や無理解によるもので、そのために恐らくその主原因は、今日眺望できるゴシックの巨大寺院によって置き換えられたときに、その大部分の造形が破壊されてしまったからである(結果として忘却されてしまった)

 

一つの大聖堂を建設するには、大規模なプロジェクトをよく知り遂行する能力を備えた偉大な人物を必要とした。


出たとこ勝負で人気取りの感覚とは程遠く、司教座聖堂は計画性を持った力量の産物であり、また比較的短い期間にこういった野心的な建物を建造するために必要とする、健全な資金力の産物である。

 

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Los Complejos catedralicios

 

Los complejos catedralicios conformaron los conjuntos arquitectónicos más monumentales de la Edad Media peninsular, aunque sólo el de Santiago de Compostela llegó a tener unas dimensiones grandiosas. 


複雑極まる大聖堂群

大聖堂群はイベリア半島の中世時代のもっとも記念的総合建築物となったのである。


ただサンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂だけが巨大な規模を持つに至った。


しかしながら修道院によって違いはあるが、わずかな修道院だけが回廊を持ち、司教の息のかかった出先としての修道院のほとんどが、各種の奉仕のために司教施居住施設や病院などを備えた。


####

 

最後に次のことを想起しておきたい。


中世時代においてあらゆる建物は、とくに彫刻物において、他彩色を施されていた。すべて色付きで、今日の壁画もすべてそうであるが、こういった塗り物は脆く傷みやすいので長持ちしない。


極端な古臭い批判かもしれないが、他彩色塗は石から剥げ落ちやすく、修復もなかなか厄介で中世の聖堂の彫刻物の元のイメージは失われてしまう。


著名な歴史家J.Heersはこの点についてかなり辛辣で、


“今日的に見れば、ロマネスクでもゴシックでも教会の造形は大きな間違いだ。凝縮した低い荒削りの天井のようなロマネスク的なものから学んだ上に陶酔してしまい、またゴシック的裸石の貴族的で簡素な明るさ、それに反し金ぴかの色彩を放つけばけばしさ…”


事実、造形的要素や生き生きとした色彩に優れ、壁の上部分には通常平坦にピグメントが塗られ、全体として均質性が与えられ、切り石の接合部分が目立つ。


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大聖堂は、多くの人々が参画し信者たちの厳粛な職務と典礼に熱情によって、信仰教育活動や典礼と教会としての慈善事業の重要な中心である。


大聖堂は熱心な祈り、洗礼、ミサ、聖職務、結婚や葬祭などの場所となり、とどのつまり共同体のあらゆる宗教生活の重要な場所でもある。


また往々にして巡礼の中心ともなり、年間を通じての主要な祭事、聖パトロンの存在などに多くの大衆がやってくる。


しかも教育のための特筆すべき場所で,しばしば長い退屈する説教の場でもあり,また外陣にはお香が焚かれ、いい匂いの中で素晴らしい祭事が展開する。


忘却してならないのは、寺院就中大聖堂では長い年月に亘り、建物内の広い覆われた空間の中で、典礼的あるいは世俗の見世物が催された。


ヨーロッパの田舎では1718世紀には新しい劇などが創作されたこともある。

 

 

しかしながら、書類と云う形の数多くの証拠が明らかにしているように、中世の人たちは必ずしも教会内部で然るべき敬意を以てふるまったり、装飾に意を用いたりしなかった。


その理由はいたって単純である。


つまり宗教施設の内部は、信者の場所であり、公共的なものであり公共の結構な集会場所だったからである。


壁の内部でぶらぶらしたり、凍てつくような冬又炎熱の夏でも遊びに興じたり、飲み踊り、放縦なはやり歌のリズムに合わせて歌い、聖人祭りの前夜は特にそうであった。


また典礼歌の最中に世俗のメロディ―なども聞こえてきたりした。普通の宗教会議や公会議などは時に応じて、聖堂内部は神聖な信仰の為のみに使用されるべきものであり、市場や会合のためのものではないと注意を促したほどである。


神に関連する事柄に親しむと、あの頃の数世紀独特の特徴として、一種の共生、霊的なものと地上的なものを考慮すれば自明となる。


.ウイジンガが古典研究の中で指摘しているように、中世の人たちの日常生活からみて考えさせられるのは、“信仰にあまりにのめり込んでいるため、寧ろ聖なるものと異端なるものの間にある距離を測ることができなくなることを恐れていたと云える。



                

 ( 翻訳:勝峰 昭 2017.09.23)

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この書籍に取り上げられている大聖堂の写真を以下3点紹介します。 



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聖書と詩篇にしばしば登場するダビデ王、
中世においてはサンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂の銀細工の扉口の
扶壁のこれが最も素晴らしい記念碑的表現だと言われています。


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  写真1 ダビデ王 サンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂




ダビデはその地位にふさわしく王冠を被り、豪華に着飾って玉座に座っています。


脚を交差するスタイルはトゥールーズのサン・セルナン教会の「獅子座と牡羊座」と同じで、その全体から強い王の権威が感じられます。


王はハープを弾き、プルサテリウム(チターに似た弦楽器)あるいはラベル(バイオリンの古形)でメロディーを奏でています。





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 写真2 楽器 (”Mensaje Simbólico del Arte Medieval" Santiago Sebastián,1994より)


(参考)中世の楽器については、『神の美術ーイスパニア・ロマネスクの世界』(勝峰昭著、2011年、光陽出版社)〈神を崇めるためには音楽を!〉の項で詳述しています。



ラベルを持ち、王は悪魔像を踏みつけています。


音楽の力によって悪の力を退治するかのように。





次は柱頭の例です。

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   写真3 ダビデと楽師たち、ハカ大聖堂



中世における巡礼路の起点ハカ大聖堂に、楽器を手にするダビデ王の情景の柱頭があります。


1514年に消滅した合唱の間にあったものだろうと言われています。


楽師たちを随伴していて、立派な浮彫りとなっています。


ロマネスク美術では珍しく写実的であり生き生きとした表情をしています。


右側のプルトニウム奏者は曲の演奏を始める合図を受けようとしているのか、振り返っています。 




最後に聖書から
 

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 写真4 ダビデと楽師たち、Worms聖書  (写真1、3、4は ”ROMÁNICO2"  2006より)

 

 



 (勝峰昭執筆:2009年10月6日)

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2017年晩秋イスパニア訪問時、Dr. Juan Antonio Olañetaより古書を贈呈されました。


ずっと以前からロマネスク建築に関する本が欲しいと思い、今回なにか買いたいと思っていた矢先だったので、本当に嬉しく思いました。


タイトルは、Arquetectura Románica(ロマネスク建築)


Raymond Oursel

Victoria Bastos/Carlos R,Lafora西訳、

Ediciones Encuentro, 1987,(Total p.521)


この本はもともと仏語版『Arquitecture romane1970発行で、


豊富な写真も掲載されていて、


シリーズEUROPA ROMANE No.11として刊行されていたものです。


ここに目次を邦訳 します。

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Prefacio 序


La raíz del problema 問題の所在


Las tenieblas del tiempo 暗闇の時代

 (資金調達と管理、
  建築家と工匠、
  空間における合一、
  いくつかの謎の解釈、
  ≪創設≫から貢献)

 
Las perspectivas 展望

(地方派閥は存在したのか、
 新しい仕事と分野の拡大、
 新しい時代への方向付け)

 La roca 


採掘、 
 ローマ的システム、
 刻印された徴、
 コモの工匠たち)

 Las plantas 
平面

後陣、地下祭室及び円形周辺、
 後陣の配列、
 周歩廊と放射線状祭室、
 外陣と聖域境、
 翼廊と塔)

 El muro 


灯火、
 突出部の奇妙な形)

 La bóveda 穹窿

建築工事の構成、
 二分の一、四分の一穹窿、

     構造的自立へ:切石穹窿、尖端アーチ及び天蓋、
 新しい均衡:クリュニー的尖端穹窿)

 終わりに代えて

 写真索引


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これら目次から大方の中味を推察してくだい。




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   (裏表紙)
 
         


(勝峰昭執筆:2017.12.12 )



 

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画家横尾忠則著『創造と老年9人の生涯現役クリエーターによる対談集』(SBクリエイティブ、2018年)と云う本を読みました。


私のような後期高齢者にとって久しぶりに示唆に富む面白い本でした。


その中の面談者の一人、画家李菟喚(リ・ウファン)は次のような意味のことを語っておられます;


≪平面性と云うのは、自分の内面性を強く反映できる。これが平面性の特徴です。≫

つまり画家として、絵を描く時の画面と自分の関係を“
内面性の表出“と云う概念に統一されています。


ロマネスクの場合、絵画は言うに及ばず、彫刻の場合も所謂平浮き彫りと云う平面に近い手法は正に限りない平面性の追求と云えるでしょう。


ロマネスク美術においては三次元的な仕上がりを忌避するのは、あながち「モーセの十戒」の立体性の禁止(像をつくってはならな)に遡るまでもなく、当時は通例のことなのですが、


絵画の場合と同様に、彫刻でもにじみ出る内面性の表出効果が求められます。


対象作品はできるだけ真正面から見ることを絵画彫刻物共要請されますが、このことは観照上非常に重要なことだと思います。


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Portada de Bossost (Valle de Arán)    El Románico Catalánより


(勝峰昭執筆:2018年5月5日)


                      

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ロマネスクの専門家の間で長い間議論になっていて未解決のテーマのひとつが、芸術家の工房が移動式であったかどうかです。

代表的なケースはカベスタニ工匠といわれる人の場合で、彼にナバラ、カタルーニャ、ロセリョン(フランス)や北イタリアなど、それぞれ遠いところの仕事を任せたことです。


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Portada de la iglesia de la Magdalena de Tudela (Navarra)


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この芸術家もしくは彼の工房は12世紀末頃の彫刻では最も情熱的で個性を持った作品を制作してる工房の一つだといわれています。

彼はロマネスクのピカソだと言われているのです。


Image 2023-01-15 at 14.42 (1)

Porta dei Principi Duemo de Modela (Italia)

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それは工房であったのか?

彼は修道士でベネディクト派の修道院を移動して仕事を依頼していたのか?

何にせよ、彼の様式は特異です。

(Juan Antonio Olañeta Molina 講演録より、邦訳 勝峰昭、2013年)






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神学者にして哲学者でもあるシャルトルのベルナルド曰く、「我々は巨人の肩に乗った小人みたいなものだ」と。
これを最大限引き合いに出して、かの時代の世界は古典世界と呼ばれるもので、
考古学者シャルル・ジェルヴィーユが1818年に初めて使った「ロマネスク」という言葉、
フランス語で arquitecture romane  と名付けたものですが、ローマのことを指します。


スペインでは Villa–Amil が最初に Románico  という言葉を使いました。

それまでロマネスク建築に対して、Arte de estilo bizatino (ビザンチン様式の美術) ないしは latino–bizantino (ビザンチン風ラテン美術)という言葉が使われました。


古代美術とロマネスク美術との結びつきは数多く見られます。

ローマの廃墟にある些細なもの、石工たちによってローマ時代の聖堂のものが用いられ細工されました。

ローマの円柱など、多くのローマ時代の建造物が使われたのです。
 


フランス教会 Saint–Just de Valcabrére はローマの材料を再生物として最も多く使った例としてここに紹介します。

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この近くの Lugdunum Convenarum の町の廃墟から持ってきたものです。

再利用されたローマの大理石は本物です。

モンテカシーノのデリデシオ大修道院長であり、将来教皇となる人物がローマを旅して、自分の新しい修道院用に大理石を求めたと言われています。



(Juan Antonio Olañeta Molina 講演録より、邦訳 勝峰昭、2013年)


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美の形態としての芸術は、第一義的には美の対象として見出されなくてはなりません。

美には批判が伴います。

それは制作と観照という二面があるからです。

時代の相違による芸術造形(形式・様式・要素など)および芸術家の表現的・技能的優劣が問題となるのは自明のことでしょう。

形而上学的な情景の中で、主観的に本質を捉えて、芸術的観点からロマネスク美術を究めていきたいと必要な学習を始めました。

聖書、神学、哲学、歴史、美学、芸術論、、、


カントの言う、客観的側面を重視せず、主観の側のみ拘泥する、主観美学つまり観念論美学の立場の主観美。

弁証法的唯物論の立場からすれば、美は諸現象に固有であり、客観的に存在する、

対置の美学(美と醜)として、その解釈は弁証法的になされる立場となります。


美が存在しなければ醜も存在しません。

醜は美の副次的存在であり、美の属性であります。

醜は美から派生したものであり、決してその逆ではありません。

アドルノの『美の理論』の見解は、ヘーゲルの「美は単に結果として均衡に絡みつくもの」とも重なり、美は単独では定義しがたい概念です。

醜は非美(美がまったく無い)のではなく、美の否定(美ではない)なのです。


ロマネスク美術を究めたい思いから日々の読書は続きます。

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竹内敏雄著 『美学総論』 弘文堂 1979年

テオドール・W・アドルノ 『美の理論』大久保健治訳 河出書房 2007年

パウガルテン 『醜の美学』 未知谷 2007年

G.W.F.Hegel  『Lecciones sobre la estética 』 AKAL 2007 (邦題『美学講義』)

ジョルジュ・アガンベン 『いと高き貧しさ』ー修道院規則と生の形式 みすず書房 2014年

(勝峰昭執筆:2015年01月05日)


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『神の美術ーイスパニア・ロマネ数の世界』の第1章「イスパニア・ロマネスクの美学」では、〈西欧中世の美学思想の原点〉、〈崇高美〉、〈色彩の美学〉など15項目取り上げています。

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古代ギリシャの数学者ピタゴラスおよびネオ・プラトン主義者聖アウグスティヌスは、数とか幾何学的形は相関関係をもち、宇宙を律する基礎だと考えました。

数は宇宙と調和し、人間と聖性を律する力を持つものでした。

聖アウグスティヌスは数学が人間の知識の基本であるとし、その象徴的意味に価値を認めました。



*数の象徴に関する見解は様々ですが、ここでは標準的な解釈を紹介します。

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数_ 神の創造の最初にして不変の単位であり、万物の生成の原初principio、絶対absolutoの象徴である。


数_ 二元性dualidad、両義性ambivalenciaを意味し、紛争をもたらす数である。


数_ 三位一体、主祭室の三連窓、聖堂玄関の三つの扉など。


数_ 四角いことから、地、物質的なもの、狂言されたもの、変化するものを象徴。


数_ キリストの5つの傷を象徴。


数_ 地4と天3の合計、つまり天地創造の意。
    黙示録にはしばしば7なる数が出現する、
              7つの教会、野獣の7つの角、神の怒りの7つの杯、7本のアーチ。


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「第7の封印の沈黙」
『ベアトゥス黙示録註解 ファクンドス写本』(岩波書店、1998より)

子羊が第7の封印を開いたとき、天は半時間ほど沈黙につつまれた、
そして、わたしは7人の天使が神の前に立っているのを見た。
彼らには7つのラッパが与えられた。



数_ 復活、洗礼の象徴。洗礼堂は8角形。


数_12 宇宙の秩序、12ヶ月、十二使徒たち、黄道の12の徴、
    イスラエルの12種族、天なるエルサレムの12扉。



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”Los manuscritos españoles"   (Funsación germán sánchez ruipérez,1993より)

「天上のエルサレム」
『ベアトス注釈書』サン・ミゲール・エスカラーダ、10世紀中頃

新しいエルサレムには高い城壁と12の門があり、12人の天使が警護している。
またイスラエルの12部族の名前が刻まれている。


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このように、数の象徴的表象はロマネスク美術のいたるところに知覚されるので、象徴的意味を理解することはとても重要なこととなります。


 (勝峰昭 執筆:2014年11月1日)


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