勝峰 昭の「神の美術」あれこれ。

キリスト教美術―スペイン・ロマネスクを中心に― AKIRA KATSUMINE

タグ:写本

Manuscritos iluminados Mozárabes

中世の芸術表現の最も重要なもののひとつ細密画手稿本は、
修道院の専門写本工房において、
芸術的、教義的才能のある修道士たちの手により、
その修道院はもとより、教会または王たちのために創作されたものです。


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 El Cordero sobre el monte Sión. Valladolid, Biblioteca de la Universidad, (ms. 433, f. 145v).

 
【子羊がシオン山の上に立っており、、子羊と共に十四万四千人の者たちがいて、
 その額には子羊の名と、子羊の父の名とが記されていた。
 わたしは、大水のとどろくような音、また激しい雷のような音が天から響くのを聞いた。
 わたしが聞いたその音は、琴を弾く者たちが竪琴を弾いているようであった。】 
  (ヨハネの黙示録14ー1〜2)

 

前回(2022年6月12日)紹介しましたモサラベ建築の一例、サン・ミゲール・デ・エスカラーダ修道院教会はもともとビシゴード教会の跡地に、コルドバから移住してきたキリスト教徒モサラベの修道士によって9世紀にに建造されました。

今は教会だけが姿をとどめています。

ここにあった修道院はスクリプトリウム(写経所)として聖書や黙示録が製作されていました。
 

西欧の初期中世時代、知の集積所は修道院でした。
 
後に司教座学校もこれに加わります。


手稿本の種類は、ベアト本、聖書、書、詩篇、殉教書(聖人伝)などがあります。

大きく重くて扱いが大変な手稿本は、羊皮紙に手描きされました。
 
それらは半分に折り重ねられて交互に入れこまれ、二重に縫合され表紙がつけられました。
 
貴金属もしくは貴石を嵌めた打ち出しを施し装飾されました。

ラテン語が用いられ、当初はビシゴド様式の小文字が用いられ、のちにカロリング様式へと置き換えられていきました。

テキストの文化的価値は別として興味を引くのは、強烈な色彩を用いた挿絵が挿入されたことです。

これらの絵は細密画と名付けられました。



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モサラベ手稿本は11世紀末〜12世紀初頭までスペインで製作されました。

達筆なビシゴド文字 のテキストは、二つまたは三つに分けられてページを埋め尽くしています。

写字生、挿絵師、場所、日付などのデータは、最終ページの奥付きに記されました。 



最もよく知られたモサラベ手稿本はベアトゥスです。


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   Alfa. Beato de la Biblioteca Nacional, Madrid, (vitr. 14- 2, f. 6).

【神である主、今おられ、かっておられ、やがて来られる方、全能者がこう言われる。
「わたしはアルファであり、オメガである。」】 (ヨハネの黙示録1−8)

 

8世紀にリエバナの修道士ベアトによって記された「ヨハネの黙示録注解」には幾つか異なった様式のものがあります。

その魅力は、
赤、青、黄、緑など原色を交互に帯状または斑に使い、ロマネスク美術技法にプラスされたモサラベの独特な様式が神秘性を醸し出しているからではないでしょうか。



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 以上の写真は、この本 ” Los manuscritos españoles ” より


(勝峰昭 執筆:2015年5月25日)

 
【お知らせ】

勝峰昭著『イスパニア・ロマネスク美術』、『神の美術―イスパニア・ロマネスクの世界』(光陽出版社)は刊行以来、
三省堂書店神保町本店の美術書コーナーでお取り扱いいただいてきましたが、
2022年5月新社屋建設のため移転縮小となることにより、今後はアマゾンだけでの取扱いとなります。


イスパニア・ロマネスク美術
勝峰 昭
光陽出版社
2008-08T


 






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FIN

(次回2022.07.02更新予定)

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  書き溜められた原稿より更新しています(管理人)

 (勝峰昭 執筆 2018年4月20日)


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    『Los manuscritos españoles』より



このアバンギャルドと発音する言葉の意味は、
元々フランス語では軍事用語avant gardeで、
本隊に先駆けて偵察・先制攻撃を行う小隊の意。


 これが芸術分野へ転用され、
20世紀初め以来ヨーロッパの既成の通念を否定し、
未知の表現領域を開拓しようとする
芸術運動のことを指しました(広辞苑)


英語でadvance guard
イスパニア語でvanguardia
つまり「前衛」転じて“先端的”を意味します。

  

 これはイスパニアのモサラべ様式の写本
(マドリッドの国立図書館蔵)、

表現主義的で遠近を高低で描き分ける手法(上程遠い)
人物像は単純で気ままな感じで、
全体の情景は「ヨハネの黙示録VI.1-8」*の
最初の鍵が開く時のものです。


 
*「四人の騎士」モサラべ様式の写本では、

青白い馬に乗った騎士の後ろから、

ハデスが付き従う。

 

またこの四頭の馬は,

ゼカリア書6章1-8によれば

神の四方の風

(白馬は西、赤馬は南、黒馬は北、青白い馬は東)

や黄道十二宮を表す。

(新約聖書翻訳委員会訳『ヨハネの黙示録』
図説・黙示録)、岩波書店、1996年初版による)




 ギリシャやローマ時代を律した写実主義を退け、
このような新規な手法で描くのも
西欧ではロマネスク美術の類なき自由さと
やはりこの時代としては相当なアバンギャルドだったと
言えるのではないでしょうか。

 

この写本は11世紀中ごろ制作されたもので、
我が国でいえば平安末期頃です。



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 (462頁の分厚い本です)

 

 

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