ロマネスクの切手 
 

 

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ナバラ州レイレLeyreは、ハカJacaの近くです。

 

なんといってもここの目玉は地下祭室で、上部の後陣穹窿の総重量を支えるため、太く短い支柱と円柱が林立しています。(切手:上段右)

 

仕組まれたとしかいいようのない柱頭が、このような真っ暗な地下祭室にあるのです。

 

何故このように目線より低い位置にわざわざ巨大な柱頭を取り付けそれに彫刻までしたのでしょうか。

 

不必要な装飾を拒むシトー派の修道院としては、理解に苦しむ謎といわざるをえません。

 

そのために実見しようと来たのですが、もう一つこれといった明確な理由が分かりませんでした。

レイレはフランスからの巡礼路の二つが一緒になる地点からそれほど遠くない開けたところにあります。

 

訪れる人も多いこの修道院の歴史は、プレロマネスク時代9世紀、ナバラ王朝Sancho El Mayor王の時代に始まり、1057年になって漸く聖別されたのですが、圧倒的な重量感を伴うマッス性が特徴でもある、ローマ的な初期キリスト教建築の影響をうけています。

 

聖堂は3廊・3祭室のバシリカ様式ですが、時代の趨勢には逆らえず、14世紀には西正面を除きゴシック様式への改修が行われました。

 

しかし地下祭室だけは後陣の総重量を支えて昔の姿をとどめています。

 

3祭室の下部に相応する形で3つの区分と、もう一つ中央区画が追加されて計4区画に分けられています。

 

2本の支柱と8本の円柱が全重量を支えているわけですが、そのいくつかに巨大な柱頭が嵌め込まれ、それぞれ線estrías、球根bulbos、渦巻きvolutasなどの単純な模様の彫刻が目線よりやや下に展開しています。

推定の域を出ませんが、柱頭を用いたのは過剰な加重に対して建築上の視覚力学的な安定感を求めたこと、それに彫刻まで施したのは(それも建築後数年経ってから)「空白への忌避感」の故であったのではないかと思っています。

なお正面玄関のタンパンには、初期ロマネスク美術の貴重な彫り物-「荘厳のキリスト」が、右に聖ペテロ、左に聖ヨハネをともなって主宰しています。

 

ナバラのキリスト教美術の希少な遺産といえます。

 

 

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(勝峰昭執筆2009630日)

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FIN

(次回2022.04.22更新予定)

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